青マリ

青峰っち見て見て、というライン通知が画面に見えた。

恐らくひとつ前のメッセージには画像が添付されており、嫌な予感しかしない青峰は汗で重くなったタオルを邪魔そうにスポーツバッグへ投げながらひとまず落ち着いてプラスチックベンチへ座る。

汗に蒸れた太腿にその青いプラスチックの感触は不快で、シャワーを浴びてさっさと帰って家で待っているはずの可愛らしい彼女を一目見て安心したかった。

何度も言うが、黄瀬からのラインに嫌な予感しかしない。

彼女の愛音は、家でいい子に留守番をしているはずだ。

ひとつ深呼吸をしてロックを解除をする。指先まで汗に蒸れていて滑りが悪いことにもイラついた顔をして早急にラインを開く。

 

現れたのはやはり、というべき姿で。思った通りに可愛いらしい愛音の写メが映っている。

だが、想像通りの姿があり驚くことがないはずの青峰の瞳は見開かれていた。

映っていた愛音は、それは普段から可愛らしくシンプルな白のワンピースも可憐さをもって着こなすというのに、映っていた彼女は普段とは違った表情をして立っているのだ。メイクのことなど青峰にはわからなかったが、ぽってりとした小さな唇は吸い込まれそうに美味そうな光沢と色味でもって誘いをかけており。薄く染まった頬や目許が白い肌をさらに艶めかしく魅せていた。着ている服は、愛音が選ばなさそうな大胆に背中や臍を開いた薄手のシルクであしらわれている。

 

黄瀬の前でそのような恰好で、何をしているのだとか、その黄瀬に向けた挑発的な眼差しはなんなのだとか。青峰の頭の中がグルグルと煮えたぎりそうで。

返事をするより先に電話をかけ居場所を脅し聞こうと。だがそれよりも先にライン通知がロッカー室へ響く。

黄瀬の方が上手だとは思いたくはなかったが、イラついた動作そのままにミシリとスマホが軋みそうな圧をかけながらメッセージを開く。

今度は動画であった。

 

先程と違わぬセクシーな衣装を着た愛音がまず現れた。どこか恥ずかし気に目許を染めており、撮影している黄瀬を見上げ何度か頷いて、そしてサッと画面から消えてしまった。

暗い画面が数秒続いている最中、青峰の足は乱暴に貧乏揺すりをして黄瀬をどうしてやろうかという事で頭がいっぱいであった。

だがそれも次に愛音が現れた時にはすっかり消え去ってしまった。

現れた愛音は、一瞬羞恥にはにかんだあと、ふっと息を抜くように猫が人間を見下ろす時のような挑発顔に変えた。スポットライトは何色にも変化し、その中で愛音は堂々と歩みを進めていく。交互に爪先を一直線上へ。歩くたびに腰が大きく左右に振れ、その振動で意外にも豊胸なそれが柔らかそうに揺れており。知らず青峰の喉が上下に揺れ乾いた喉に唾液を流した。

画面の目の前に立った愛音は、静かに唇を動かす。

声は聞こえなかった。小さな舌が、艶やかな唇の向こう側でぬるりと光っているのが見えるだけで。

と、全て見終える前に電話がかかってきた。

「青峰っち、内緒にしてたけど今晩のガルコレに愛音ちゃん招待してるんスよね」

「峰くんもお呼ばれされてるのよ!」

「んで、モデルごっこ中なわけス。さすがに本番には出してあげられないスけど、メイクもプロに頼んだし、こんな愛音ちゃん今しか見れないスよ?早く青峰っちもコッチ来てよ」

「峰くん見た?見た?愛音ウォーキングのセンスいいのよ?早く来ないと黄瀬くんとランウェイ歩いちゃうから」

「青峰っちの衣装も用意して…」

「いいからどこいンのかさっさと言え」

 

額に青筋を立てた青峰は、ロッカー室を後にし煩くエンジン音を立てバイクを飛ばした。