レポート

私の中国で行ってみたい都市は、中国最大の国際経済都市である上海市だ。

2010年の上海万博でも注目された、この古くから物流の中心地として栄えた上海市は世界有数の国際都市である。近年では多くの外資系企業の進出により世界的な経済都市として成長し続けている同国の商業・金融の中心のひとつ。そんな世界から注目を集める経済都市を直に肌に感じてみたいのだ。

上海市は19世紀後半、南京条約により港が開かれたのを機に外国人留地ができ西洋文化の影響を大きく受けることとなった。かつては東洋のパリとも呼ばれるなど華やかな時代を経て第二次世界大戦等激動の歴史をくぐりぬけたあと、目覚ましい成長を遂げる。今もその成長は止まらず中国の近代化へ向かう歴史の中で上海は最も早く、最も進んだ都市であるといえるだろう。

そうして極めて近代的で最新の文化が取り入れられるエネルギーに満ちた街であるが、中国の伝統的な特色も残った街であることも特徴的だ。このレトロとモダンが絶妙に融合した美しい都市は日本だけでなく世界でも人気である。そうした西洋と東洋が融合した都市故に、エリアによって異なった名所や独特の雰囲気をもっているのが上海市の魅力でもある。主要な名所を巡るツアーはもちろん様々なプランの上海観光を各旅行会社で取り揃えていることでもかの都市がいかに人を惹きつけてやまないかをうかがわせる。

かく言う私もそのレトロとモダンの相対する景観に惹かれたひとりだ。懐古的な古からの建築物と摩天楼を彩る虹を思わせるような鮮やかな夜景のライトアップ、ネット等で見られるそのどちらの写真にも中国の美意識が感じられ胸が高鳴ってしまう。

 

そのレトロとモダンを同時に見られる場所がある。それは外灘あるいはバンドと呼ばれるこのエリアだ。

イギリスが中国からこの地区を受け取り、そこに誕生した租界地区がこの外灘。上海といえばここ、という口コミも少なくなく、川沿いのデッキのような場所である外灘遊歩道はいつも沢山の人がいるそう。

上海を 「浦東」 と 「浦西」 の東西に分ける黄浦江。その浦西サイドの堤防沿いを南北に走る中山東一路の一帯は租界時代の欧風建築群が立ち並び、夜には金色にライトアップが施される高級ブランド店やホテル、銀行など連なる西洋式の歴史建造群はまるでテーマパークのよう。

そして外灘から川沿いを挟んだ対岸に見えるは世界からも注目されるビジネス街浦東新区。ニューヨークの摩天楼を思わせる超高層ビルが林立し、その夜景はあまりにも有名。

そうした対岸の上海ヒルズなどの近代的ビル群による未来都市的な様相、その一方で租界時代の面影を残す西洋文化の影響を受けた古い建築物。上海の新と旧の象徴を感じられる送還なスポットだ。

 

その外灘地区を眺めながら歩いていける場所にある上海を代表する観光地のひとつ、明代に造られた400年以上の歴史を持つ古典庭園「豫園」もまたとても魅力的だ。

この「豫園」とは「楽しい園」という意味があり、面積は約2万平方メートル。四川省の役人によって、故郷を懐かしむ両親を慰める為に建設されたものだという。造園にはなんと18年もの歳月がかかっており、役人家の没落後は様々な曲折を経て改修・整備がされ現在の形として一般に開放されるようになった。

「豫園」というと土産物店や人気飲食店の集まる一帯の総称として紹介されることが多いが、実際は庭園の名前である。正式には土産物店が集まる商業街は「豫園商城」、西園の約半分を庭園とし「豫園」と呼ぶ。

豫園地帯は、庭園や、お寺、市場を網羅しているというのだから驚きだ。商業、観光、文化を一体としており、その特別な形態は上海唯一のもので極めて強い民族性と世界性を持っている。上海の重要な観光名所、ショッピング中心地、及び上海を代表するシンボルとなっている。

装飾や様式は伝統的でありつつ、周辺は中華的な高層建築物が並んでおり楼閣や池、奇石など芸術品のように細かい工夫が織り込まれるこの異空間を散策すれば先程の外灘とも違った中国の美意識を感じられるだろう。

 

ノスタルジックさの溢れる「豫園」の二駅隣には、2000年に新しく開発された地区がある。オープン以来マイナーチェンジを続ける「新天地」である。

ここは上海の伝統建築、共同住宅地「石庫門」を修復したアミューズメントスポットだ。新天地の開発コンセプトは、新天地を開発した瑞安集団のホームページによれば「石庫門の外装は残しながらも内装を改装することで、1920~30年代のフランス租界の雰囲気を漂わせたショッピングゾーンと国際レベルのレストランゾーンを開発する」ことにあるそうで、まさにそのコンセプトが若者や観光客に受け入れられ連日の賑わいを見せている。青煉瓦敷きの歩道、赤青が交互に置かれた煉瓦壁、漆塗りの黒扉、山花の彫られた戸框の横木など、旧フランス租界時代のノスタルジックな面影を再現した街にはハイセンスでおしゃれなレストランやカフェ、ショップが並んでいる。

「豫園」と「新天地」はまさにレトロとモダンさを体現しており、そのギャップへの驚きが楽しめるだろう。そしてこれこそがまさに上海市なのである。

 

このように魅力的な上海市であるが、いくつか問題を抱えているのも事実である。

世界でも有名な都市上海市であるが、今年5月上旬に上海市の観光ライトアップが資金不足で一部が休止状態であると報じられた。上海を訪れる観光客は上海万博での盛り上がり以降も増え続けており、上記に挙げた外灘を訪れる観光客は減ってはいない。だが、先述にもあった上海のモダンとレトロを同時に見ることが出来る黄浦江、その観光遊覧船利用客は万博時の二分の一以下にまで落ち込んでしまっているという。つまり遊覧船観光が定番の観光ルートから外れつつあることを示しているのだ。

その要因として黄浦江両岸の景観灯が点灯されない状態になった為に遊覧船業者もそのエリアまで足を伸ばさなくなったことが考えられる。何故点灯されなくなったのか、その原因は資金不足が有力視されている。景観灯の設置時には公的資金が投入されたがその後の維持費用や電気代はこの場所を管理する企業や機構が負担することになっており、公的補助金も一部に出ているものの、維持に莫大な費用がかかることから点灯を断念している場所が数多くあるのだとしている。

 

こうした資金不足による観光産業への影響。この負の連鎖はこれだけには留まっていない。

近年問題視されている中国の大気汚染もその要因のひとつだ。すでに中国各地では大気汚染による視界不良から空港や高層道路の閉鎖が相次ぎ物流にも大きな影響が出ているのだという。

影響は物流だけにとどまらない。大気汚染により上海市の観光資源のひとつである夜景も、場合によってはほとんど見えなくなっているというのだ。

夜景を売りにしていたホテルや飲食店への客は減ってしまうだろう。その影響で観光客までもが減ってしまえば先述の、資金不足により休止状態になっているライトアップだけではなく、外国人投資家が保有している不動産やテナント料を手放してしまう事になればこの下落は深刻なものとなってしまう。

 

上海市は2013年における、アメリカのダウ・ジョーンズなどが公表した金融センターランキングにおいて、ニューヨーク、ロンドン、香港、東京、シンガポールに次ぐ、世界第6位と評価された。また2014年における、アメリカのシンクタンクが公表したビジネス・人材・文化・政治などを対象とした総合的な世界都市ランキングにおいて世界18位、特にビジネス分野において高評価を得ている。

だが幾つかの要因による、深刻化しつつある経済への打撃を上海市は乗り越えていかなければならない。

モダンとレトロを融合したあの美しい景色は、外灘における上海市の過去の歴史を思わせる西洋建造物と現代の上海市における高度成長の象徴である未来都市のような超高層ビル群との対比が色濃いからこそ魅力的であるのだと私は思う。そして是非、上海市へ行きその鮮やかなギャップを感じたいのだ。