あるえりをかく
「ロリコン。」
元来から、意識せずとも甘くこもる声がアルヴィンの耳に届いた。くすんだ金髪がちょうど見えなくなる頃合いを見て現れた、桃色の縁取りにすこしだけ、ほう、と嘆息する。エリーゼも、暦をかんがえるとじゅうぶんすぎるほどの美少女であるが、アイネはまた違った魅力がある。小悪魔じみていて、だのにどこか庇護欲をそそるような危うさを持っていた。
「こりゃ今日は吉日かな、これまた可愛らしい」
「つべこべうるさい」
そしてその彼女は、絵に描いたような「不機嫌」をその可憐な顔ばせいっぱいに主張している。饒舌を披露し早々に切り抜けようとすると、先回りを食らった。相変わらず聡明な様子である。
アイネはふん、といつも通りに鼻を鳴らしてみせるとキッとこちらを睨んできた。
「犯罪者。」
「残念ですが猫ちゃんに構ってても、俺は犯罪者な訳ですがー」
「……~~っ!」
その場凌ぎの詭弁は、どうやら効果的だったようだ。アルヴィンが勿体ぶって、語尾を伸ばすと口を噤んでしまう。苛立ちを隠そうともせず、視線を斜め下に放ると折込んだスカートの丈を握り締めた。いち教師としては注意するべきだとは思うが―なに、それ以前にアルヴィンは自分が男たる所以を理解している。陶磁のごとく光る太腿を拝見したにとどめた。
「ま、本人に対してでもそんな事言うもんじゃァないぜ」
「ほんとのこと言って何が悪いの」
「…相変わらず、猫ちゃんはイジワルなこって。」
全く余裕を崩さない一回りも違う青年に、アイネは調子を崩されやすい。いつもは断固としてペースを貫くアイネが、だ。それはこの男だからこそ得ている経験則や、身辺でも目立つ胡散臭さが由であるとアイネは熟慮している。しかしこうやって、いくら冷静に「アルヴィン」という男を洞察していても、揺さぶられる。
アイネは、その、新鮮な感覚が嫌いではない。
「……アイネ、ロリコンでアヤシイ知り合いとか、いらないから。」
つっけんどんに言い放っても、アルヴィンは笑みを深くするだけだった。そんなイジワルしてると浮気しちゃう、とぶつくされつつも今日も彼の部屋で一日を終えるのだろう。 おわり