グレアイ
グレイくんが、傘を忘れたとおめおめ。わざわざラインしてきやがったので、可愛くて世界一やさしいアイネは待ってあげることにしたのであった。
「……遅い…」
小雨が降りやまぬ中、昇降口に立ち尽くしていると孤独感に見舞われる。灰色ののっぺりとした雲や、暗鬱とした空に追い打ちをかけられるようにして、気分が苛まれていった。
遅い。
今のアイネの気分をひとことで表すと、不機嫌、それだ。
「悪い、遅れた」
踵を返そうか悩んでいたところで、くだんの人物が現れた。しかし、表面上謝罪を並べたところでどこか彼もまた、不機嫌だ。じと、とこちらを睨んでから、「まだ42分だけど」と付け足してくる。約束の時間は40分だったりする。
アイネは、人を待たせるのは得意だけど、待たされるのは好きじゃないの。
そう視線で答えてあげると、大きなため息が返ってきた。シカトしてレースのついたなんともガーリーな傘を差し出す。無言で受け取ったグレイくんは、いくばくかしてから開いて、そっとアイネの頭上に向けた。
「悪戯好きっつーか、なんつーか…」
「なあに。」
「小悪魔、か」
対象が自分にとって外貌的に可愛いと思っていれば、小悪魔。そうでなければ、悪戯好き、という小悪魔と「悪戯っ子」の定義の違いをグレイくんは語りだした。
アイネ、難しいことはよくわかんない。
そんな顔をしといてあげて、アイネのちょうどいいペースで歩いてくれるグレイくんの隣をまた、歩いてあげるのです。