あおきえろ

 

 「黄瀬 涼太」――見るからに男の名前を宿したその「彼女」は、アイドルであった。否、敢えてマニッシュな芸名をわざと使用している策すら伺える容貌は極めてガーリーに輝く。

 

 ハニーゴールドの金髪は肩程までで揺れる丸味を帯びたボブヘアに、真珠のように白い肌。睫毛に縁どられた大きな双眸も、健康的な桃色のくちびるもどれもどれもが黄瀬の価値を「女」として高めるものだった。口調こそ体育会染みていて名に冠するものであったが、全てが一巡して彼女の個性を引き出していた。

 

 老若問わず全ての男性が、浮足立った口で言う。「黄瀬ちゃん可愛い」「キセリョを恋人にしたい」「あんなに可愛い子は初めてだ」と、稀代の美少女をあらゆる口々で称賛する。

 

 しかしながら、そんな完全無欠のアイドルにも秘密があった。

 

 NBAプレーヤー、青峰大輝とお付き合いしているという、処女性で売っている彼女にしてみれば――有り得ないことである。

 

 「アイツとの交際がバレてみろ、お前のアイドル生命も終わりだ」とはマネージャーもよく言ったものである、としみじみ顧みる。自分の胸を背後から捏ねくり回しては、その大きな掌で乳搾りでもするように乳肉をマッサージする青峰の男臭い、愉悦じみた横顔を見詰めながら、本当にそう思う。

 

 これが、爽やか路線で売っている駆け出しの新人俳優とかなら、まだダメージは少なかっただろうに。なにせ相手が青峰だ。かの、青峰大輝だ。考えるだけで重くなる脳内を無視することを決めたが、なにせ現実も直視を拒みたいものであり一層黄瀬の頭は重くなる。

 

 先程コンサートの度重なるアンコールを終え、控室にはけて来たばかりだと言うのに。美少女の汗は花の匂いがする、などとこの後に及んで言う気はない。しかしお世辞でも汗のにおいなんて選り好みして嗅ぐものではないと思う。そんな意見に反して、青峰は首筋に鼻先を押し当てふかくふかく呼吸する。ド変態だ。

 

 「ねぇ、…青峰っち、アンタ、ほんと」

 

 「ッせぇな、黙ってヤらせろ」

 

 軽く肘で腹をついて距離を置いても、青峰はめげなかった。それどころか機嫌が悪くなる一方で、生来のヤクザ顔を顰めては睨みつけてくる光景はいくぶん迫力がありすぎる。いくら芸能界という厳しい場に身を置いていても、黄瀬はまだはたちを迎えたばかりの少女だった。すぐに俯いて口を噤む。そんなしおらしい光景に気を良くした青峰は、控室の黒革のよくできたソファーに押し倒した。

 

 「……ッあの、ねぇ。…これからバックダンサーとかスタッフとか関係者とかスポンサーとかその他諸々、死ぬほど挨拶周りに来るんスよ。此処で!このソファーで契約を取り交わしたりすンの、自分が何してるかわかってるんスか」

 

 「ア?そいつらが、俺より、金持ってるっつーなら考え直すけどよォ」

 

 ンなの有り得ねーだろ、そう一言落として青峰はジャケットごとタンクトップを床に金繰り捨てた。そして黄瀬のステージ衣装からさらけられる胸元に唇を這わすと谷間に唾液を滴らせてから、依然胸囲のにおいを嗅いでいる。獣のようであった。

 

そうして野蛮に口角を上げた途端、大げさな衣擦れの音をたたせて、破いた。黄瀬の、商売道具でもあるアイドル衣装を谷間から裂いた。びり、ビリリ、と下劣な音がする。これに身を固くした彼女をまた満足げに見ろすと、お目見えしたかたちの整ったたわわな乳房の頂点。ピンク色の乳首を抓り上げる。

 

 「ぁっ、ん、」

 

 「ったく笑かすよなァ…黄瀬ェ。会った頃からカラダごと調教されてるお前がよ、アイドルっつー……とんだ茶番じゃねえか」

 

 「ん、ふぁ、やだ、ってばぁッ」

 

 乳輪ごと口に含んだ青峰がキスマークを付ける要領で吸引すると、乳首からどんどんと赤い色が散らばっていく。恍惚とした顔でそれを見届ければ、あとは目指すものはひとつだった。

 

 所謂「見せパン」というやつなのだろう。フリルがあざとい程についた白のショーパンをさっさと取り除くと、あがる悲鳴も余所に膝でグリグリと圧迫してみせる。

 

 「ャ、やだってば、あおみね、っち、…や、んぁ」

 

 「何、嫌がってるフリとか萎えンだけど。レイプされてぇの?」

 

 「ち、がっ」

 

 「お望みならしょーがねぇよなぁ」