〆土曜まで

うとましダーリン

 

 

 思い返せば、多分、いちばんさいしょにしっくり来たのはあの時だ。

 クロはあの時笑ってたっけ。おれは、たしか、気分が悪くなって踵を返しながらiphoneのスイッチを入れて、汗ばんでなかなかタップできない画面に、苛立っていた。

 

 「…で、……何の用」

 「…スイマセン、突然、」

 

 月島蛍は形式とばかりにわざとらしい咳払いをして、研磨はそれを興味がなさそうに眺めていた。古びた昼下がり、そんな表現が合う近所の喫茶店は、壁にヤニの匂いがしみ込んでいる。男子大学生二人が面会するには少々老獪な其処に、いつか黒尾の父が連れてきてくれたなと、ふと頭をよぎる。

 烏野のクレバーな、―研磨には対する相手の印象はここで止まる。名前も実はよく、覚えていない。翔陽のことはよく覚えているのに、と大きな猫目を素っ気なく動かすと月島は機敏に肩を竦めた。恐らくこちらの思考など見え透いているのだろう。さすがクレバーな、と続けるのは皮肉たらしい気がして心の中で口を噤むことにする。

 大学に進学してから幾許かした梅雨の頃、突然ラインの友達リストに「月島蛍」という名前が連なった。よくよく事態が呑み込めないうちに、その「月島蛍」は「お久しぶりです」からなる簡単な挨拶のあとに、「お時間があるなら」と続けてきた。思い出話でもしたいなどと言う。あからさまな詐欺のやり口――スパムに対して人並み以上に対処法を知っていた研磨が既読スルーを決め込んでいると、今度は幼馴染からのポップアップが届いた。なんでも月島が東京に家族観光に来ると言うので、飲みにでも連れて行ってやると豪語したのはいいものの、ゼミで立て込んでいてとてもじゃあないが行けそうにない。金は出すからもてなして欲しいとのことだった。面倒臭いことに巻き込まれた。瞬時に動き出すよく出来た脳みそが警戒音を鳴らす。既にいろいろな不可思議な点に、研磨は気付いてしまっていた。

 第一に、(おそらく)コミュ障同士を引き合わせるような軽率な真似は、黒尾はしない筈である。

 「たまにはと思いまして~」

 「う、うん。そうだね…」

 完全に他人様向けの笑顔を向ける月島に、此処にはいない黒尾が重なった。

 幼馴染のあの男は、自分とベクトルが違うとは言えど相当賢い男だ。人間の内心を読み、コントロールするのが元来からとても上手い。そんな黒尾がこの重苦しいシチュエーションのお膳立てをしたのだと考えると、唸る他なかったが、同じく賢い筈の月島がそれに気付いていない筈も……ないのではないか。

 

 「……あまり、予測しないでもらえますか」

 

 不意に場に響いた声は、ぽつんと波紋を広げた。寂しげに口角だけつけて笑う月島の表情が珍しくて、後追いするのを観念する。それから、互いに窓辺に滴る雨粒を望んでから10分が経って漸く月島が口を開いた。彼はただ一言、「桜が見たい」と言った。

 

 

 宮城の桜は一足遅いのだろうか。この時期に桜が見たいなんて、馬鹿だ。とは思いつつも、渋々バスに乗車する。ちょうど駅1つ分離れたところに、桜で有名な公園があって小さい頃はよく遠足に行ったものだった。そのノスタルジーな気分に苛まれてついつい足を伸ばす事になっただけであって、自分は全くのインドアつまり引きこもりなのに、と研磨は苦い顔をする。全部クロのせいだ。後でDSでも強請ってやろう。秋にはポケモンの新作も出ることだし。

 そうでないと耐え切れない。

 隣の、頭2つ程高い位置にある綺麗な顔ばせは動かない。マネキンか、フィギュアか、人形みたいだった。元々口数が多いタイプには見えなかったので、想像通りと言えばその通りなのであるが、やや困る。霜がひいて白く濁った車窓に、ジョナサンの看板が映っていた。あそこも確か小学校の時足繁く連れて行かれた。

 「いつからの付き合いなんですか」

 「……ああ、…うん、いつだろう」

 黒尾との関係を暗に示されていることは、すぐに分かった。暫く逡巡する。

 「少なくとも小学校前、かな」

 「随分と経つんですね」

 「5844日」

 「ごせ……?」

 孤爪もこういう表情をする事があるのだと、月島は面喰った。彼は悪戯めいて、だけれど大切にしてきたおもちゃを他人に初めて晒すような、無垢さを持って、ほんの些細に笑った。

 

 「クロとおれがいっしょにいるようになってから、そのくらい、経つみたい」

 

 

 

 

 

私の中国で行ってみたい都市は、中国最大の国際経済都市である上海市である。

2010年の上海万博でも注目された、この古くから物流の中心地として栄えた上海市は世界有数の国際都市である。近年では多くの外資系企業の進出により世界的な経済都市して成長し続けている同国の商業・金融の中心のひとつだ。そんな世界から注目を集める経済都市を直に肌に感じてみたい。

上海市は19世紀後半、南京条約により港が開かれたのを機に外国人留地ができ西洋文化の影響を大きく受けることとなった。かつては東洋のパリとも呼ばれるなど華やかな時代を経て第二次世界大戦等激動の歴史をくぐりぬけたあと、目覚ましい成長を遂げる。今もその成長は止まらず中国の近代化へ向かう歴史の中で上海は最も早く、最も進んだ都市であるといえるだろう。

 そうして極めて近代的で最新の文化が取り入れられるエネルギーに満ちた街であるが、中国の伝統的な特色も残った街であることも特徴的だ。このレトロとモダンが絶妙に融合した美しい都市は日本だけでなく世界でも人気である。そうした西洋と東洋が融合した都市故に、エリアによって異なった名所や独特の雰囲気をもっているのが上海市の魅力でもある。主要な名所を巡るツアーはもちろん様々なプランの上海観光を各旅行会社で取り揃えていることでもかの都市がいかに人を惹きつけてやまないかをうかがわせる。かく言う私もそのレトロとモダンの相対する景観に惹かれたひとりだ。懐古的な古からの建築物と摩天楼を彩る虹を思わせるような鮮やかな夜景のライトアップ、ネット等で見られるそのどちらの写真にも中国の美意識が感じられ胸が高鳴ってしまう。

そのレトロとモダンを同時に見られる場所がある。それは外灘あるいはバンドと呼ばれるこのエリアだ。イギリスが中国からこの地区を受け取り、そこに誕生した租界地区がこの外灘。上海といえばここ、という口コミも少なくなく、川沿いのデッキのような場所である外灘遊歩道はいつも沢山の人がいるそうである。

上海を 「浦東」 と 「浦西」 の東西に分ける黄浦江。その浦西サイドの堤防沿いを南北に走る中山東一路の一帯は租界時代の欧風建築群が立ち並び、夜には金色にライトアップが施される高級ブランド店やホテル、銀行など連なる西洋式の歴史建造群はまるでテーマパークのようだ。そして外灘から川沿いを挟んだ対岸に見えるは世界からも注目されるビジネス街浦東新区。ニューヨークの摩天楼を思わせる超高層ビルが林立し、その夜景はあまりにも有名である。そうした対岸の上海ヒルズなどの近代的ビル群による未来都市的な様相、その一方で租界時代の面影を残す西洋文化の影響を受けた古い建築物。上海の新と旧の象徴を感じられる送還なスポットだ。その外灘地区を眺めながら歩いていける場所にある上海を代表する観光地のひとつ、明代に造られた400年以上の歴史を持つ古典庭園「豫園」もまたとても魅力的だ。

この「豫園」とは「楽しい園」という意味があり、面積は約2万平方メートル。四川省の役人によって、故郷を懐かしむ両親を慰める為に建設されたものだという。造園にはなんと18年もの歳月がかかっており、役人家の没落後は様々な曲折を経て改修・整備がされ現在の形として一般に開放されるようになった。「豫園」というと土産物店や人気飲食店の集まる一帯の総称として紹介されることが多いが、実際は庭園の名前である。正式には土産物店が集まる商業街は「豫園商城」、西園の約半分を庭園とし「豫園」と呼ぶ。豫園地帯は、庭園や、お寺、市場を網羅しているというのだから驚きだ。商業、観光、文化を一体としており、その特別な形態は上海唯一のもので極めて強い民族性と世界性を持っている。上海の重要な観光名所、ショッピング中心地、及び上海を代表するシンボルとなっている。装飾や様式は伝統的でありつつ、周辺は中華的な高層建築物が並んでおり楼閣や池、奇石など芸術品のように細かい工夫が織り込まれるこの異空間を散策すれば先程の外灘とも違った中国の美意識を感じられるだろう。

ノスタルジックさの溢れる「豫園」の二駅隣には、2000年に新しく開発された地区がある。オープン以来マイナーチェンジを続ける「新天地」である。

ここは上海の伝統建築、共同住宅地「石庫門」を修復したアミューズメントスポットだ。新天地の開発コンセプトは、新天地を開発した瑞安集団のホームページによれば「石庫門の外装は残しながらも内装を改装することで、1920~30年代のフランス租界の雰囲気を漂わせたショッピングゾーンと国際レベルのレストランゾーンを開発する」ことにあるそうで、まさにそのコンセプトが若者や観光客に受け入れられ連日の賑わいを見せている。青煉瓦敷きの歩道、赤青が交互に置かれた煉瓦壁、漆塗りの黒扉、山花の彫られた戸框の横木など、旧フランス租界時代のノスタルジックな面影を再現した街にはハイセンスでおしゃれなレストランやカフェ、ショップが並んでいる。

「豫園」と「新天地」はまさにレトロとモダンさを体現しており、そのギャップへの驚きが楽しめるだろう。そしてこれこそがまさに上海市なのである。

このように魅力的な上海市であるが、いくつか問題を抱えているのも事実である。世界でも有名な都市上海市であるが、今年5月上旬に上海市の観光ライトアップが資金不足で一部が休止状態であると報じられた。上海を訪れる観光客は上海万博での盛り上がり以降も増え続けており、上記に挙げた外灘を訪れる観光客は減ってはいない。だが、先述にもあった上海のモダンとレトロを同時に見ることが出来る黄浦江、その観光遊覧船利用客は万博時の二分の一以下にまで落ち込んでしまっているという。つまり遊覧船観光が定番の観光ルートから外れつつあることを示しているのだ。

その要因として黄浦江両岸の景観灯が点灯されない状態になった為に遊覧船業者もそのエリアまで足を伸ばさなくなったことが考えられる。何故点灯されなくなったのか、その原因は資金不足が有力視されている。景観灯の設置時には公的資金が投入されたがその後の維持費用や電気代はこの場所を管理する企業や機構が負担することになっており、公的補助金も一部に出ているものの、維持に莫大な費用がかかることから点灯を断念している場所が数多くあるのだとしている。

こうした資金不足による観光産業への影響。この負の連鎖はこれだけには留まっていない。近年問題視されている中国の大気汚染もその要因のひとつだ。すでに中国各地では大気汚染による視界不良から空港や高層道路の閉鎖が相次ぎ物流にも大きな影響が出ているのだという。

影響は物流だけにとどまらない。大気汚染により上海市の観光資源のひとつである夜景も、場合によってはほとんど見えなくなっているというのだ。夜景を売りにしていたホテルや飲食店への客は減ってしまうだろう。その影響で観光客までもが減ってしまえば先述の、資金不足により休止状態になっているライトアップだけではなく、外国人投資家が保有している不動産やテナント料を手放してしまう事になればこの下落は深刻なものとなってしまう。

上海市は2013年における、アメリカのダウ・ジョーンズなどが公表した金融センターランキングにおいて、ニューヨーク、ロンドン、香港、東京、シンガポールに次ぐ、世界第6位と評価された。だが幾つかの要因による、深刻化しつつある経済への打撃を上海市は乗り越えていかなければならない。

モダンとレトロを融合したあの美しい景色は、外灘における上海市の過去の歴史を思わせる西洋建造物と現代の上海市における高度成長の象徴である未来都市のような超高層ビル群との対比が色濃いからこそ魅力的であるのだと私は思う。そして是非、上海市へ行きその鮮やかなギャップを感じたい。

 

参考文献

http://www2.explore.ne.jp/news/articles/21506.html?r=sh / 2014年6月3日アクセス(エクスプロア上海)

http://j.people.com.cn/94476/8397081.html 2014年6月3日アクセス(人民網)

http://www.peoplechina.com.cn/ 2014年6月3日アクセス(人民中国)

http://www.shanghaikanko.com/ 2014年6月3日アクセス(上海観光)

http://nikkan-spa.jp/605150 2014年6月3日アクセス(日刊SPA)

 

レポート

私の中国で行ってみたい都市は、中国最大の国際経済都市である上海市だ。

2010年の上海万博でも注目された、この古くから物流の中心地として栄えた上海市は世界有数の国際都市である。近年では多くの外資系企業の進出により世界的な経済都市として成長し続けている同国の商業・金融の中心のひとつ。そんな世界から注目を集める経済都市を直に肌に感じてみたいのだ。

上海市は19世紀後半、南京条約により港が開かれたのを機に外国人留地ができ西洋文化の影響を大きく受けることとなった。かつては東洋のパリとも呼ばれるなど華やかな時代を経て第二次世界大戦等激動の歴史をくぐりぬけたあと、目覚ましい成長を遂げる。今もその成長は止まらず中国の近代化へ向かう歴史の中で上海は最も早く、最も進んだ都市であるといえるだろう。

そうして極めて近代的で最新の文化が取り入れられるエネルギーに満ちた街であるが、中国の伝統的な特色も残った街であることも特徴的だ。このレトロとモダンが絶妙に融合した美しい都市は日本だけでなく世界でも人気である。そうした西洋と東洋が融合した都市故に、エリアによって異なった名所や独特の雰囲気をもっているのが上海市の魅力でもある。主要な名所を巡るツアーはもちろん様々なプランの上海観光を各旅行会社で取り揃えていることでもかの都市がいかに人を惹きつけてやまないかをうかがわせる。

かく言う私もそのレトロとモダンの相対する景観に惹かれたひとりだ。懐古的な古からの建築物と摩天楼を彩る虹を思わせるような鮮やかな夜景のライトアップ、ネット等で見られるそのどちらの写真にも中国の美意識が感じられ胸が高鳴ってしまう。

 

そのレトロとモダンを同時に見られる場所がある。それは外灘あるいはバンドと呼ばれるこのエリアだ。

イギリスが中国からこの地区を受け取り、そこに誕生した租界地区がこの外灘。上海といえばここ、という口コミも少なくなく、川沿いのデッキのような場所である外灘遊歩道はいつも沢山の人がいるそう。

上海を 「浦東」 と 「浦西」 の東西に分ける黄浦江。その浦西サイドの堤防沿いを南北に走る中山東一路の一帯は租界時代の欧風建築群が立ち並び、夜には金色にライトアップが施される高級ブランド店やホテル、銀行など連なる西洋式の歴史建造群はまるでテーマパークのよう。

そして外灘から川沿いを挟んだ対岸に見えるは世界からも注目されるビジネス街浦東新区。ニューヨークの摩天楼を思わせる超高層ビルが林立し、その夜景はあまりにも有名。

そうした対岸の上海ヒルズなどの近代的ビル群による未来都市的な様相、その一方で租界時代の面影を残す西洋文化の影響を受けた古い建築物。上海の新と旧の象徴を感じられる送還なスポットだ。

 

その外灘地区を眺めながら歩いていける場所にある上海を代表する観光地のひとつ、明代に造られた400年以上の歴史を持つ古典庭園「豫園」もまたとても魅力的だ。

この「豫園」とは「楽しい園」という意味があり、面積は約2万平方メートル。四川省の役人によって、故郷を懐かしむ両親を慰める為に建設されたものだという。造園にはなんと18年もの歳月がかかっており、役人家の没落後は様々な曲折を経て改修・整備がされ現在の形として一般に開放されるようになった。

「豫園」というと土産物店や人気飲食店の集まる一帯の総称として紹介されることが多いが、実際は庭園の名前である。正式には土産物店が集まる商業街は「豫園商城」、西園の約半分を庭園とし「豫園」と呼ぶ。

豫園地帯は、庭園や、お寺、市場を網羅しているというのだから驚きだ。商業、観光、文化を一体としており、その特別な形態は上海唯一のもので極めて強い民族性と世界性を持っている。上海の重要な観光名所、ショッピング中心地、及び上海を代表するシンボルとなっている。

装飾や様式は伝統的でありつつ、周辺は中華的な高層建築物が並んでおり楼閣や池、奇石など芸術品のように細かい工夫が織り込まれるこの異空間を散策すれば先程の外灘とも違った中国の美意識を感じられるだろう。

 

ノスタルジックさの溢れる「豫園」の二駅隣には、2000年に新しく開発された地区がある。オープン以来マイナーチェンジを続ける「新天地」である。

ここは上海の伝統建築、共同住宅地「石庫門」を修復したアミューズメントスポットだ。新天地の開発コンセプトは、新天地を開発した瑞安集団のホームページによれば「石庫門の外装は残しながらも内装を改装することで、1920~30年代のフランス租界の雰囲気を漂わせたショッピングゾーンと国際レベルのレストランゾーンを開発する」ことにあるそうで、まさにそのコンセプトが若者や観光客に受け入れられ連日の賑わいを見せている。青煉瓦敷きの歩道、赤青が交互に置かれた煉瓦壁、漆塗りの黒扉、山花の彫られた戸框の横木など、旧フランス租界時代のノスタルジックな面影を再現した街にはハイセンスでおしゃれなレストランやカフェ、ショップが並んでいる。

「豫園」と「新天地」はまさにレトロとモダンさを体現しており、そのギャップへの驚きが楽しめるだろう。そしてこれこそがまさに上海市なのである。

 

このように魅力的な上海市であるが、いくつか問題を抱えているのも事実である。

世界でも有名な都市上海市であるが、今年5月上旬に上海市の観光ライトアップが資金不足で一部が休止状態であると報じられた。上海を訪れる観光客は上海万博での盛り上がり以降も増え続けており、上記に挙げた外灘を訪れる観光客は減ってはいない。だが、先述にもあった上海のモダンとレトロを同時に見ることが出来る黄浦江、その観光遊覧船利用客は万博時の二分の一以下にまで落ち込んでしまっているという。つまり遊覧船観光が定番の観光ルートから外れつつあることを示しているのだ。

その要因として黄浦江両岸の景観灯が点灯されない状態になった為に遊覧船業者もそのエリアまで足を伸ばさなくなったことが考えられる。何故点灯されなくなったのか、その原因は資金不足が有力視されている。景観灯の設置時には公的資金が投入されたがその後の維持費用や電気代はこの場所を管理する企業や機構が負担することになっており、公的補助金も一部に出ているものの、維持に莫大な費用がかかることから点灯を断念している場所が数多くあるのだとしている。

 

こうした資金不足による観光産業への影響。この負の連鎖はこれだけには留まっていない。

近年問題視されている中国の大気汚染もその要因のひとつだ。すでに中国各地では大気汚染による視界不良から空港や高層道路の閉鎖が相次ぎ物流にも大きな影響が出ているのだという。

影響は物流だけにとどまらない。大気汚染により上海市の観光資源のひとつである夜景も、場合によってはほとんど見えなくなっているというのだ。

夜景を売りにしていたホテルや飲食店への客は減ってしまうだろう。その影響で観光客までもが減ってしまえば先述の、資金不足により休止状態になっているライトアップだけではなく、外国人投資家が保有している不動産やテナント料を手放してしまう事になればこの下落は深刻なものとなってしまう。

 

上海市は2013年における、アメリカのダウ・ジョーンズなどが公表した金融センターランキングにおいて、ニューヨーク、ロンドン、香港、東京、シンガポールに次ぐ、世界第6位と評価された。また2014年における、アメリカのシンクタンクが公表したビジネス・人材・文化・政治などを対象とした総合的な世界都市ランキングにおいて世界18位、特にビジネス分野において高評価を得ている。

だが幾つかの要因による、深刻化しつつある経済への打撃を上海市は乗り越えていかなければならない。

モダンとレトロを融合したあの美しい景色は、外灘における上海市の過去の歴史を思わせる西洋建造物と現代の上海市における高度成長の象徴である未来都市のような超高層ビル群との対比が色濃いからこそ魅力的であるのだと私は思う。そして是非、上海市へ行きその鮮やかなギャップを感じたいのだ。

黒美

 自分の嗜好は、すこし、世間様とズレているらしい。そのことに黒尾鉄朗は、高校を卒業するころには気づいていたし、確信があった。だがこの嗜好が何に由来されているのか、はたまた誰によって齎されていたかも容易く証明出来ていたので(己の脳内では)黒尾は自分の嗜好をクレバーに考察していたし、客観的にも見ていた。

 簡単に言うと、社会不適合者に惹かれる。所謂ニートだとか、コミュ障だとか蔑視されがちな人々だ。

 しかし黒尾の名声を尊ぶにあたり、もっと言うと、「整った」社会不適合者だ。才能に恵まれ、運が良ければ容姿も良好で、その癖に社会という団体に対し何時までも馴染めない。この均衡に惹きつけられ、そしてお近づきになれば彼らの狭い狭いテリトリーに徐々に自分が浸されていくことにある種の快感を覚える。

 独占欲や支配欲が常人より、強いのだろう。

 と黒尾は冷静に結論づける。だが黒尾鉄朗は嗜好とは違って、コミュニケーション能力が高く、思慮に富み、頭の回転も容姿も、何もかも揃えてしまっている類の、「社会適合者」だ。その事も俄かに気づいているが、きちんとは理解していない。

 

 

 目下の小さな頭を大きく撫であげてやると、気の抜けた鳴き声が上がった。「荒北」、と意味もなく呼んでみる。そうしたら絶対にまたあの緩い笑い方で、甘えてみせるのだとばかりに思っていたのだが、違った。「あ、カキンしなきゃ」と彼女は唐突に思い出した。

 黒尾は場違いに、すこしときめく。

 荒北という女とは知り合ってからあまり経っていないが、なるほど男の趣向を刺激した。愛らしい外見に反して、口は非常に悪く「ウンコ」なんて幼い単語も油断すれば出てくる。喫煙者で、アプリゲームに課金し、トモダチはもっぱら姉と兄。勉強が嫌いで、基本的に何もできない。

 そのわりに、瞬発的におよそ尋常じゃ追いつかない程の頭の回転を見せることもある。しりとりなんかでは、黒尾は彼女に勝ったことがなかったりする。

 きっとその特殊な環境が育てたのだろう。特に――兄にはべらぼうに甘やかされ、それは妹というより「恋人」にするように箱に入れられてきたようであるから。

 要するに、黒尾の趣向にものの見事に合った。

 「……おにーちゃんは今日は?」

 「ヤスちゃん今日、面接って言ってたヨ」

 就活を何ら問題なくそそくさと済ませ、この隆盛期に他大に赴く余裕あるのも自分くらいだろう。白のロンTに春用モッズコートという軽快な出で立ちで現れた黒尾を、荒北は歓迎した。兄の方はおそらく気が気でなく、凄まじいプレッシャーと共に就活を追いこんでいるのだろうことが分かる。なにせ、兄が不在ということは、大学で妹の世話を焼いてるのは専ら姉。もしくは妹はひとりになっているか、どっちかだ。

 色んな思考の果てで意地悪く口元を歪めた黒尾は、「ふーん」と頷いた。

 「じゃあ黒尾センパイとデートしよ」 

 「ダメだヨ、みぃ、授業だヨ」

 「ンー…じゃあその後ね」

 対して思考に追いついていない様子の荒北の手を取って、黒尾は歩み出す。今日はなかなかにタイミングが良かった。

 

荒美←黒

「こ、こんにちは」

 という鈴の音を鳴らしたという表現が似合う可愛らしい響きを、黒尾は見下ろした。小さくドモりながらもじもじと手遊びをしている少女の桃髪を春風が揺らし、薄らと染まる目許をチラりと見せる。

ふわりと香る草のにおいに混じる香水は、確かリリィだっただろうか。今クラスの女子の間でも流行っている香水だと、ゆっくりと瞳を細め黒尾は少女を見つめた。

有り触れたファン。有り触れた女子。

それが黒尾にとっての第一印象。

 

「荒北、また来たのか」

「うん!」

 ちょうど関東バレー部合同合宿が神奈川に決まり、そういえばあの少女の出身はこのあたりだったかと、マメな男が連絡を取ったのは数日前。蝉の煩さなどさして気にもとめていないように涼しい顔をしている黒尾の胸元あたりでは、初めて出会った時のように手遊びをした少女が微笑んでいた。

 毎日、というわけではなかったが、気まぐれに体育館へと美優紀と名乗った少女は現れた。女マネのいない音駒バレー部員には、その可愛らしくも少女らしい彼女は刺激が強いらしく、来れば逆に彼女を見学したがる者も…一部いる。

「あ!あ、あ、あの…」

「なァに虎チャン、ウザいヨ」

「う、ウザ…!」

 追い打ちをかけるように、ウルサイ、と言われてしまえば彼女のいちファンである虎徹はすごすごと去っていく。というのも日常の事となりつつあった。

 黒尾だけと面識しているときにはわかりづらかったが、どうやら彼女は「猫っぽい」ところがあるらしく――そういえば顔立ちもなんとなくアメショのような可愛らしさがある――お気に入りの黒尾以外の前では、なかなかに口悪く、そして研磨によればタチの悪い「カキンチュウ」という荒っぽい部分もあるのだとか。

 黒尾からすれば、ただの犬っぽい子猫なのだが。

「あーあ、泣かせちゃって。悪い女」

「いいのォ、あれくらいしないと本当にうるさいんだヨ、あの人」

「ま、ゆっくりしていきなよ。もうすぐ休憩――」

「だめー。今日はヤスチャンと来てるからもう帰るの」

「…ヤスチャン?」

 「黒尾」はテレビで見れるから充分だろう、ヤスチャンがあんまり黒尾と話すなと言った、と美優紀は何故か得意げに語る。

 何のことだかわからないが、鼻息ふんふん自慢げな様子は単純に男の加護欲を掻き立て、話を聞いているふりをしながら不思議ちゃんな少女の髪をさりげに撫でようと手を伸ばした時。

「・・・」

 指先から産毛が逆立つような、野生じみた視線を感じ顔を上げた。

 ミンミンと煩い蝉の音がする方向、木陰の元にひとりの長身な男が立っていた。見るからに体の線は細そうであったが、スポーツマンが見ればそれとわかる、自転車に「熱中」している筋肉が脚に見えた。

「箱根学園だったな」

「んー?」

「荒北のいるトコ」

「そーだヨ。箱根学園」

 同じ苗字をテレビで聞いたことがある。その競技に関して「王者」と称されるそのチームで、無敗の新星だという名を。

 覚えていたのは彼が黒尾と同い年だからだ。

 年の頃を考えれば彼女は彼の妹。義理というわけではなさそうな、似た顔立ちだ、間違いないだろう。

 だがあの視線は。

美優紀、帰るぞォ!」

 叫ぶ声は随分とドスが効いていた。低く響くそれに何人か部員が反応する。

 部長としては彼の重い空気を体育館へ届かせるべきではないだろう。だが、黒尾は口角を上げ猫背を伸ばした。

「ヤスチャンと仲良いみたいだな」

「!! 黒尾、ヤスチャン知ってるのォ!?」

「ハコガクの荒北は有名」

「えへへ」

 自慢げなのはそういうことか。随分ブラコンらしい、垂れた目をして少女は頬を染める。

 兄の事に夢中で黒尾が肩を抱き寄せたことに気づかない。

 彼女はただ、有り触れたファンのひとり、女子のひとりだったはずだが。小さな肩を抱いてみればそれはそうじゃなかったのかもしれない、と腹の底にストンとその曖昧な独占欲を落とした。

 兄である彼の方が近しいのか、それとも自分の方が視線を奪い得られるのか。

 以前、何故自分に声をかけたのだと自然な話しの流れで尋ねた時には、テレビで黒尾を見たのだとだけ答えが返ってきた。それ以上でもそれ以下でも無いのだろう、黒尾への感情を勘ぐる部員達に美優紀は不思議そうに首を傾けた。

 同じような顔をして、肩を抱いている黒尾に気づいた美優紀が見上げてくる。

「ちょ、ちょっと汗臭いんだけどォ」

 唇を尖らせる少女にニコリと微笑み返せば、その頬は薄く染まった。俯き、手遊びを始める。

 そして木陰からの鋭さを持った威圧が黒尾を包み込んだ。

「…美優紀ちゃん、その香水、お兄さんのチョイスじゃない?」

「そんなこともわかっちゃうんだァ!」

 きゃっきゃと無邪気にはしゃぐ少女の間延びした声が心地良かった。そろそろ花の香りは部活を終えた男の汗臭さに混じっただろうか。

 

 そして木陰の黒い影は、鼻を拭いゆっくりと痛いほど眩しい陽の元へ、その細くとも太い筋肉張った脚をあらわした。

あおき

 

 

 

windowsdocomo、ワーゲン、カルピス、コカ・コーラ、バスケットボールワールドカップ、ソニーウォークマンUNIQLODior――黄瀬涼太、前代未聞の世界同時超大型タイアップ開始……ですか」

 

 赤字で溌剌とタイトルが書かれている某有名サーチサイトにて。トップニュースの更にトップ欄、カメラアイコン付きで“黄瀬 世界同時タイアップへ”という煽りの赴くままにタップした数秒前の自分を黒子テツヤは呪った。タイトルに長々と流れる著名すぎる固有名詞の数々は、残念ながら二度見したところで変わっていない。

 

 黄瀬が、バスケを諦めたのはもう何年前のことになるだろうか。オーバーワークによる脚の故障が、結局、彼の選手生命を絶った。そうして、キセキの世代の末っ子にして、同じく圧倒的なバスケセンスの持ち主―そう謳われた黄瀬ですら、今やバスケから遠く離れたところで生きていた。それは黒子にとって悲しくあり、不思議でもあり、また場所を変えても以前と変わらぬ輝きを放つ古きライバルが誇らしくもある。

 

 しかし、これはいかんせんやり過ぎではないだろうか。伝説の、なんて前置きがついている僕と違って流石キセキ直系。そんな突っ込みを送りつつ記事全文へと見進める。右方には、艶やかな金髪をフラッシュによって更に輝かせつつ、涼しげに笑っている美丈夫が一人。あまりに整ったかんばせをしているものだから、一瞬誰だと疑ったが間違えようもない。黄瀬涼太である。在学中からモデル業は細々と続けて来たようだったが、現役引退、高校卒業と進んでいくうちに段々と本腰を入れるようになり―それからの活躍は本当に目覚ましかった。あまり芸能に詳しくない黒子ですら、スターダムを全速力で登り詰めて行ったあの時のことをよく覚えている。

 

かの黄瀬の返信頻度がじょじょに落ちて行き、パタリと無くなった頃にはCDデビューを果たし、脇役であるが月9には出演しているし、成人を終えれば初出演にして国際的映画祭にて助演男優賞にノミネート、本業ではパリのコレクションに進出してとあるプレミアムブランドの専業モデルになり、最近ハリウッドの有名監督に引っこ抜かれてアメリカの芸能事務所に移籍したところまでは聞いていた筈なのだが。

 

 

 

 「プロジェクト、“The world love your color.”――なんて、また。」

 

 

 

 記者によると、企業、国境など高い垣根を超えて黄瀬涼太の魅力を伝えるという、文字通り事務所の興亡を賭けた超大型タイアップ企画のようだった。テーマは「世界中が君を愛している」、というこれまた――なんと言うか、率直なアイドル・プロモーションである。

 

 これ程に世界を席巻する存在になってしまった黄瀬のことを、黒子は少し寂しく思っていた。しかし、それと同時に思い出すのはかつての相棒のことだ。

 

(……世界、とは言いませんが少なくともバスケから愛されていた君にとっては、皮肉なのかもしれません、ね。)

 

 ホームボタンを押しながら、新聞に埋もれたアナログの国語辞典を取り出す。世間は日に日にデジタル化しているようだったが、アナログを媒体にする職業柄、「機械に依存しない」事が黒子にとっては拘りだ。

 

 ――かつての相棒、彼、青峰にとっての世界は、バスケそのものである筈だった。その確信があったからこそ、皮肉に思えていた。青峰は必ず、「世界」を「バスケがある世界」として解釈する。それは今の青峰にとって、このフレーズが苛烈な残虐性を孕んでいる可能性があると黒子は踏んでいたのだった。

 

 

 

 恋人は日本に置いてきた。

 

 正直、連れて行きたかったことも事実だが、反面、我武者羅に異国で突っ走っていたかったのも事実だ。黄瀬の存在自体が、自分に影響を及ぼしやすいことは長い付き合いのあいだで学んだつもりなのである。いつも黄瀬が追いかけてきて、ただそれに知らない顔をして振り回していると思われがちであるが、実際のところ青峰自身になにか変化が訪れるとき、だいたいその皮切りは黄瀬だ。彼がすべての予兆なのである。だから置いてくる必要性があった。それがひとつと、もうひとつはどうしても自宅に黄瀬がいると思うと、諸々を投げ捨ても構ってやりたくなるためである。ボランティア精神でなく、たとい黄瀬が興味のない顔をしていても構い倒してやりたくなる。青峰は、思いの外恋人にベタ惚れであった。

 

 ――日本を発つ当日の、まるきり「捨てられた子犬」のような顔を今でも鮮明に覚えている。確かロケが重なってしまって空港まで行く時間はないからと、玄関先で見送る手筈だった。なんてことのないように虚勢を張りながらも、普段より柳眉がきつく締まっていたことも形のよい爪先が震えていたことは、全て見通しだった。傷みを知らないさらさらの金髪を梳いてやりながら、出来る限りたくさん電話してやって、それが無理ならメールしてやって、寂しい思いなど絶対にさせるものか。――と、甲斐性が無いと散々幼馴染に扱き下ろされた自分が決意するさまは、中々に泣ける光景だったように思える。

 

 それが蓋を開けてみればどうだ。

 

三日前に送ったメールには返信は無いし、電話を掛ければ不在通知、当然スカイプには上がってこないし、私用ツイッターの呟きも3か月前の「火神っちとショッピングなう」で終わっている。

 

 忘れていたわけではない。だが、思い直した。自分の恋人は、「黄瀬涼太」そのひとであることを。

 

 見上げたスクエアズガーデンの看板には、世界一有名な炭酸飲料水にキスを送って微笑む恋人がいた。

 

 

 

 

 

カルピス:青空バッグにシャツにジーパン 海辺を大疾走。走り切って展望台に着いたところで海を見渡して太陽にカルピスかざしてごくごく。最後は倒れこんで黄瀬スマイル

 

コカ・コーラ:全分通して赤い背景。エレキベースの黄瀬が狭いワンルームで音量最大に歌ってるシーン→ドームでのライブ風景→ワンルームでコーラ飲んでカットイン

 

バスケワールドカップ:何かの曲を鼻歌で歌っている黄瀬。ジャージ姿で3Pを決める。独白。→有名プレーヤーのプレイ、試合光景→キャッチフレーズとカットインが流れつつ黄瀬がボールを鞄にしまう

 

ソニーウォークマン:アカペラの黄瀬が英語の歌を歌ってる。

 

Dior:黒のタンクトップに黒のジーンズの黄瀬が夜の歩道を歩いてるだけ。ただ危ういほのかな光を発してる。最後にウィンドウにキスしてその店がディオール

 

UNIQLOタートルネックの黄瀬がポーズ変えて笑ってる。

 

 

 

 見覚えのある美形だった。顔立ちがしっかりと設計されており、日本人というよりもヨーロピアンの色の方が強い気がする。平凡な黒髪と少しばかりよれて着込まれたスーツが、華やかな形相と不釣り合いだった。

 

 そして大股で近づいてきたその青年の顔を初めて蛍光の下で迎える。そこでようやく合点がいった。高校時代に人気だった男性アイドルによく似ていた。

 

「あんたがバスケット界じゃどんだけ持て囃されてんのか、天才クンなのかは知らないけど、俺が知る限り今のキミじゃ黄瀬には到底釣り合わない。あの子がどんだけのタイアップを抱えてるか、わかってる筈だろ青峰くん。同性愛への偏見なんて、俺にはどうでもいいんだよ。黄瀬の相手が、世間様に認められるような存在であれば、ね」

 

 

 

『あー。そうそう、カルピスは日本限定放送ッスよ!だからこっちのファンの子がコメント欄で誰かYoutubeでアップして~って騒いじゃって騒いじゃって』

 

 

 

 

 

Does the world love me?

 

――「世界が俺を愛してる?」

 

haw-haw,  its maybe very funny.

 

――「あはは、それってすごい面白いかも」

 

But

 

――「でもさぁ」

 

 

 

―――I love you.

 

 

 

Dont forget.

 

My world shine, You are in.

 

――「忘れんなよ。

 

俺の世界が輝いてるのは、あんたがいるおかげなんだ」

 

――”Here I am.

 

 

 

――by  the yellow world Ryota Kise.

 

Project the world love your color.

 

 

 

 

 

「驚愕!黄瀬CM写真の少年は青峰大輝……ですか」

 

 依然として存在感のあるタイトルロゴで評判な某有名サーチサイト―のエンタメコーナーにひっそりと載せられたリンクを、黒子テツヤはタップした。タップしつつ、この位のことでニュースになってしまう世間様を世知辛いと何となく内心で酷評する。

 

 左辺に表示されているのは、やはり思った通り、あどけなさの残った少年二人の写真だった。金髪の美少年に腕を回した褐色の少年、バスケのプレイ中らしく辺りが騒然としているコートにいるが、どちらともこれ以上になく楽しげに笑っている。ただ一言、「いい写真」と評せる一枚だった。

 

 「あのガングロっぷりは、青峰君ぐらいしかいないと思うんですが」

 

 わからないものですね。そう少し笑って呟きながら、続いてスポーツ欄に進む。Jリーグ優勝チームのパレード、スケートの若手選手の熱愛、様々な話題が連なる中ひときわ存在感を放っていたのは、「青峰 MVP奪還へ全力」という紹介記事だった。

 

 タップすると、青峰の所属するチームがNBAファイナルに進出した事と青峰本人のインタビューが記者によって語られている。我らがキセキのエースの復活に安堵したと同時に、右辺にはなるほど青々しい短髪と矢張り褐色――を覚悟していたにも拘らず、きらびやかな美丈夫が端正に微笑んでいた

 

「……応援に駆け付けたのは、まさかの同級生。とか、本当に…」

 

 よくやります。えも知れぬ記者の集客根性に呆れが浮かんだが、画像の黄瀬がマスコミ相手にしては珍しく屈託ない雰囲気で居たのでまぁいいかと思うことにした。右隣に見切れた青峰も、しごく柔らかい表情で口角を上げている。黄瀬を見る時だけ、青峰の顔が優しくなるのは中学時代から変わっていないようだ。

 

 ――写真の中の二人を邪魔してはいけないような気がして、黒子はそっとホームボタンを押した。画面が愛犬の画像に移り変わる前、お互いの薬指にシルバーに輝くものを視認した気もしたが、茶々を入れる為に見直すのも面倒なので止めておいた。

 

あおきえろ

 

 「黄瀬 涼太」――見るからに男の名前を宿したその「彼女」は、アイドルであった。否、敢えてマニッシュな芸名をわざと使用している策すら伺える容貌は極めてガーリーに輝く。

 

 ハニーゴールドの金髪は肩程までで揺れる丸味を帯びたボブヘアに、真珠のように白い肌。睫毛に縁どられた大きな双眸も、健康的な桃色のくちびるもどれもどれもが黄瀬の価値を「女」として高めるものだった。口調こそ体育会染みていて名に冠するものであったが、全てが一巡して彼女の個性を引き出していた。

 

 老若問わず全ての男性が、浮足立った口で言う。「黄瀬ちゃん可愛い」「キセリョを恋人にしたい」「あんなに可愛い子は初めてだ」と、稀代の美少女をあらゆる口々で称賛する。

 

 しかしながら、そんな完全無欠のアイドルにも秘密があった。

 

 NBAプレーヤー、青峰大輝とお付き合いしているという、処女性で売っている彼女にしてみれば――有り得ないことである。

 

 「アイツとの交際がバレてみろ、お前のアイドル生命も終わりだ」とはマネージャーもよく言ったものである、としみじみ顧みる。自分の胸を背後から捏ねくり回しては、その大きな掌で乳搾りでもするように乳肉をマッサージする青峰の男臭い、愉悦じみた横顔を見詰めながら、本当にそう思う。

 

 これが、爽やか路線で売っている駆け出しの新人俳優とかなら、まだダメージは少なかっただろうに。なにせ相手が青峰だ。かの、青峰大輝だ。考えるだけで重くなる脳内を無視することを決めたが、なにせ現実も直視を拒みたいものであり一層黄瀬の頭は重くなる。

 

 先程コンサートの度重なるアンコールを終え、控室にはけて来たばかりだと言うのに。美少女の汗は花の匂いがする、などとこの後に及んで言う気はない。しかしお世辞でも汗のにおいなんて選り好みして嗅ぐものではないと思う。そんな意見に反して、青峰は首筋に鼻先を押し当てふかくふかく呼吸する。ド変態だ。

 

 「ねぇ、…青峰っち、アンタ、ほんと」

 

 「ッせぇな、黙ってヤらせろ」

 

 軽く肘で腹をついて距離を置いても、青峰はめげなかった。それどころか機嫌が悪くなる一方で、生来のヤクザ顔を顰めては睨みつけてくる光景はいくぶん迫力がありすぎる。いくら芸能界という厳しい場に身を置いていても、黄瀬はまだはたちを迎えたばかりの少女だった。すぐに俯いて口を噤む。そんなしおらしい光景に気を良くした青峰は、控室の黒革のよくできたソファーに押し倒した。

 

 「……ッあの、ねぇ。…これからバックダンサーとかスタッフとか関係者とかスポンサーとかその他諸々、死ぬほど挨拶周りに来るんスよ。此処で!このソファーで契約を取り交わしたりすンの、自分が何してるかわかってるんスか」

 

 「ア?そいつらが、俺より、金持ってるっつーなら考え直すけどよォ」

 

 ンなの有り得ねーだろ、そう一言落として青峰はジャケットごとタンクトップを床に金繰り捨てた。そして黄瀬のステージ衣装からさらけられる胸元に唇を這わすと谷間に唾液を滴らせてから、依然胸囲のにおいを嗅いでいる。獣のようであった。

 

そうして野蛮に口角を上げた途端、大げさな衣擦れの音をたたせて、破いた。黄瀬の、商売道具でもあるアイドル衣装を谷間から裂いた。びり、ビリリ、と下劣な音がする。これに身を固くした彼女をまた満足げに見ろすと、お目見えしたかたちの整ったたわわな乳房の頂点。ピンク色の乳首を抓り上げる。

 

 「ぁっ、ん、」

 

 「ったく笑かすよなァ…黄瀬ェ。会った頃からカラダごと調教されてるお前がよ、アイドルっつー……とんだ茶番じゃねえか」

 

 「ん、ふぁ、やだ、ってばぁッ」

 

 乳輪ごと口に含んだ青峰がキスマークを付ける要領で吸引すると、乳首からどんどんと赤い色が散らばっていく。恍惚とした顔でそれを見届ければ、あとは目指すものはひとつだった。

 

 所謂「見せパン」というやつなのだろう。フリルがあざとい程についた白のショーパンをさっさと取り除くと、あがる悲鳴も余所に膝でグリグリと圧迫してみせる。

 

 「ャ、やだってば、あおみね、っち、…や、んぁ」

 

 「何、嫌がってるフリとか萎えンだけど。レイプされてぇの?」

 

 「ち、がっ」

 

 「お望みならしょーがねぇよなぁ」